生成AIを使う上での課題・解決策
生成AIは大きな可能性を秘めていますが、その活用にはいくつかの課題が存在します。
- ハルシネーション: AIが事実ではない情報を生成してしまう現象。
- ユーザーの意図理解: ユーザーの真のニーズをAIが正確に把握することの難しさ。
- AIエージェントの選択と活用: 膨大な数のAIエージェントから最適なものを選び、効果的に使いこなすことの難しさ。
- 仕上げの工程: 生成AIが出力したものを最終的に人間がどのように仕上げるかの重要性。
これらの課題を解決するために、Google Cloud は「オーケストレーション」「拡張&コネクタ」「グラウンディング&検索」といった機能を提供し、生成AIの精度と信頼性を向上させています。
生成AIを活用した各社事例
「How you build」から「What you build」へマインドをシフトし、独自のAIエージェントを開発した例として、日本テレビ放送網株式会社の事例が紹介されました。
日本テレビ放送網株式会社
日本テレビ放送網株式会社 DX推進局 データ戦略部 主任 辻 理奈氏
日本テレビ放送網株式会社(日本テレビ社)は、生成AIを活用して「心と未来に残るもの」を創造し、業務改善だけでなく事業貢献を目指しています。具体的には、Gemini を活用してTVer広告の「コンテクスチュアル広告」の配信を実現されました。例えば、番組内でエッフェル塔が映るとフランス旅行の広告を表示するなど、コンテンツの内容に合わせた広告配信が可能になります。これにより、ユーザーの興味関心に合致した広告を表示できるため、クリック率やコンバージョン率の向上が期待できるでしょう。
Google Cloudを選んだ理由
日本テレビ社がGoogle Cloudを選んだ理由は、以下の3点です。
- Geminiの存在: Gemini は、大規模言語モデルを基盤とする生成AIプラットフォームであり、高精度な自然言語処理や画像認識などを実現します。
- Google Cloudプロダクトのシームレスな連携: Google Cloudの各プロダクトはシームレスに連携しており、生成AIを活用するための環境が整っています。
- 周辺プロダクトの充実: Vertex AIなどの周辺プロダクトも充実しており、生成AIの開発・運用を効率化できます。
Vertex AIによる開発効率の向上
Vertex AIは、生成AIの開発・運用を支援するプラットフォームです。日本テレビ社ではVertex AI Agent Builder を用いて、資格情報抽出、キーワード抽出、同義語抽出などの機能を備え、クリックするだけでユーザーが活用できるチャットボットを作成されました。また、BigQuery などのAPIを設定し、Looker Studio のリンクを回答に含めることも可能です。
生成AIの実用化
日本テレビ社は、生成AIを「PoCから実用化へ」とフェーズを進め、既存のシステムに生成AIを活用していく予定とのことです。変化の早い生成AIにおいても、「効率よく用途に応じた最適な選択の答えが、Google Cloud にはある」と締めくくられました。
ヤマト運輸株式会社
ヤマト運輸株式会社 執行役員 輸配送オペレーション システム統括 秦野 芳宏氏
ヤマト運輸株式会社(ヤマト運輸社)は、「運ぶ」を通じて「豊かな社会」の実現を目指し、Google Cloud を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。
宅急便の成長と社会課題への対応
宅急便の取扱量は直近10年間で160%増加し、年間23億個に達しています。Eコマースの成長に伴い荷物バランスも変化し、2024年問題や気候変動など、多くの社会課題への対応が求められています。
ヤマト運輸社は、これらの課題を解決するため、次中期経営計画「SX2030」においてDXを推進中であるとしています。より働きやすい職場環境の整備、顧客ニーズに合わせたきめ細やかなサービスの提供を目指し、「運ぶ」×「デジタル」を融合させています。
Google Cloud AlloyDBでデータ活用を強化
ヤマト運輸社は、Google Cloud のデータベースサービス「AlloyDB」を活用し、圧倒的なデータ量の増加に対応しました。また、Google Maps を活用し、ドライバーの知見をシステムに取り込むことで、日々の宅配量の増減に合わせた担当エリア割り当てやルートの最適化や、きめ細やかなサービスを実現しています。一部のドライバーへの負担集中を防ぎ、公正な業務分担の実現にも繋がっています。
グローバル規模のアジャイル開発
ヤマト運輸は、グローバル規模でアジャイル開発体制を構築し、ドライバーと開発メンバーが同じ現場に入り、同じ温度感で課題を共有しながら開発を進めています。これらの取り組みの意義は、先んじてテクノロジーを活用して解決する取り組みによる、社会課題解決のモデルケースとなること、世界のラストマイル配送に貢献することであると述べています。
安全でより良い配送サービスモデルを世界へ
ヤマト運輸は、Google Cloud の技術を活用し、宅配業務の効率化とサービス品質の向上を実現しています。今後も、現場・テクノロジー・経営の三位一体で取り組みを進め、安全でより良い配送サービスモデルを世界に提供していくことを目指しています。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社 生産デジタル変革室 AI グループ長 後藤 広大氏
トヨタ自動車株式会社(トヨタ社)は、100年に一度と言われる大変革期において、少子高齢化による労働力不足や品質向上への要求の高まりに対応するため、Google Kubernetes Engine(GKE)を活用したAIプラットフォームを構築していると述べました。
AIプラットフォーム構築の課題
トヨタ社では、AIプラットフォーム構築において、GPU リソースの効率化、スケーラビリティやセキュリティの確保、運用コストの最適化が喫緊の課題となっていました。また、同様にAIの活用範囲の拡大も課題として認識されていました。
Google Cloud による課題解決
トヨタは、Google Cloud のAI技術を活用することで、これらの課題を解決しています。
- イメージストリーミング: GKE Autopilot とイメージストリーミングを活用することで、従来と比較して学習にかかるGPUコストを20%削減し、Pod の起動時間を75%短縮したことで、年間10,000時間以上の製造現場の工数を削減しました。
- Cloud Workstations: 開発環境をクラウド上に構築することで、開発環境の構築が短縮され、場所を選ばずに開発作業が可能になりました。
- Tech Acceleration Program: Google Cloud のスペシャリストによる伴走支援を受け、AIプラットフォームの構築を加速させています。
- Gemini Code Assist(検証中): 生成AIを活用したコードアシスタントツールにより、開発者のコーディング作業を効率化し、AIと共存した開発体験も想定されています。
- 製造現場での Gemini 活用: 製造現場における知見のデータベースをRAG(Retrieval Augmented Generation)化すること、ドメイン知識の活用も想定されています。
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
Google Cloud 執行役員 グローバル スペシャリティセールス Google Workspace 事業本部 上野 由美氏
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 常務執行役員(Chief Data and Analytics Officer)高松 英生氏
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)は、銀行・証券・カード・リースなど多岐にわたる金融サービスを提供する総合金融グループです。400年続く「三井」「住友」の伝統と革新の精神を継承し、常に時代の変化に対応したイノベーションを創出しています。
新たな事業創出を支える体制と文化
SMBCグループは、新たな事業創出を積極的に推進するため、体制面と文化面での支援を強化しています。毎月開催されるCDIOミーティングでは、経営層が直接事業提案を審査し、迅速な意思決定を可能にしています。また、「突き抜ける勇気」をスローガンに、社員が自由にアイデアを発信できる文化を醸成しています。
個人向け総合金融サービス「Olive」と米国デジタルバンク「Jenius Bank」
SMBCグループは、デジタル技術を活用した新たな金融サービスを展開しています。個人顧客向け総合金融サービス「Olive」は、銀行・証券・カード・クレジットなどグループ各社が連携し、多様な金融ニーズに応えるサービスを提供しています。また、米国ではデジタルバンク「Jenius Bank」を設立し、データウェアハウスをGoogle Cloud を活用、最先端のテクノロジーと差別化されたUI/UXで顧客体験を向上させ、市場拡大を目指しています。
IT投資の二つの側面:「攻め」と「守り」
SMBCグループでは、IT投資を「攻め」と「守り」の二つの側面から捉え、柔軟な施策に柔軟な投資を行う方針と述べています。
- 「攻め」のIT: デジタル技術を活用した新たな事業創出や既存事業の強化、顧客体験の向上など収益増強や競争優位確保などを目指すもの。
- 「守り」のIT: システムの安定稼働、インフラ整備、レガシーインフラの刷新、セキュリティ強化などを目指すもの。
守りのIT:強固なレジリエンス強化
SMBCグループは、事業継続性を確保するため、強固なレジリエンス(回復力)の強化に取り組んでいます。
マルチクラウド化によるデジタルワークプレイスのレジリエンス強化: 複数のクラウドサービスを活用することで、システム障害による業務停止リスクを低減します。
- 既存のMicrosoft 365と Google Workspace の併用: 両方のデジタルクラウドサービスをID連携し、どちらか一方のシステムが停止した場合でも、もう一方のシステムで業務を継続できるようにします。
- バックアップ機能の強化: データのバックアップ体制を強化し、災害やサイバー攻撃などによるデータ損失を防ぎます。
これらの施策により、全従業員がいつでもどこでも安心して働ける環境を構築し、システム不調による業務への影響を最小限に抑えます。
攻めのIT:生成AIの活用
SMBCグループは、生成AIの活用にも積極的に取り組んでいます。現在は社内専用環境で限定的に利用していますが、今後は業務効率化の範囲を拡大していく予定です。
生成AIは、業務プロセスの自動化や新たなサービス開発など、さまざまな分野での活用が期待されています。SMBCグループは、各クラウドサービスが持つ優れた機能や最先端の技術を活用し、生成AIの可能性を最大限に引き出していく方針です。
各社が Google Cloud を選択する理由
各社が Google Cloud を選択する理由は、主に以下の点が挙げられます。
- Gemini の存在: Google が開発した大規模言語モデルであり、高度な自然言語処理能力を持つ。
- Google Cloud プロダクトのシームレスな連携: 様々なプロダクトが統合されており、効率的な開発が可能。
- 周辺プロダクトの充実: Vertex AI Agent Builder、生成AI開発を支援するツールが豊富。
- 開発スピードの向上: Google Cloud の機能を活用することで、迅速な開発が可能。
- コストと品質の担保: 効率的な開発により、コストを抑えつつ高品質なAIを開発可能。
- 選択肢の豊富さ: 多様なAIエージェントやモデルが用意されており、用途に合わせた最適な選択が可能。
生成AIの今後
生成AIはPoC(概念実証)から実用化の時代へと移行しつつあります。Google Cloud は、既存システムへの生成AI活用や、クリエイティブ・マーケティング特化型AIエージェントの提供など、今後も様々な形で生成AIの進化を支援していく予定であるといいます。生成AIを取り巻く環境は急速に変化していますが、Google Cloud は各企業が最適な選択をできるように、多様なソリューションを提供し続けています。
Google Cloud 学習支援キャンペーンとアワード開催中!
Google Cloud Innovators
Google Cloudの最新情報や技術、活用事例などを発信するコミュニティプログラムです。メンバー限定のイベントやトレーニング、交流の機会が提供されます。
https://cloud.google.com/innovators?hl=ja
Google Cloud Skills Boost キャンペーン
Google Cloud Next '24 開催を記念した、2024年8月21日まで実施中のキャンペーンです。期間中に対象のラボを完了すると、クレジットが付与されるものです。
https://www.cloudskillsboost.google/catalog?qlcampaign=7l-next24
第 2 回 生成 AI Innovation Awards
革新的な生成AIのユースケースやビジネスケースを表彰するアワードです。応募締め切りは2024年8月9日です。優勝者には、ラスベガスで開催される Google Cloud Next in Las Vegas への特別招待が贈られます。
https://cloudonair.withgoogle.com/events/gcgenai-innovation-awards
Google Cloud Next Tokyo '25 開催決定!
次回の Google Cloud Next Tokyo ‘25 は、2025年8月5日、6日に開催されることが発表されました。詳細は後日発表されます。
来年はどんなアップデートがあるか、今から楽しみですね!